【北欧デザイン⑥】北欧の食器が一生使えるデザイン的理由。陶芸・セラミクスブランド5社のデザイン哲学|Kähler・Arabia Finland・Royal Copenhagen・Lyngby Porcelain・Iittala
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「北欧の食器って、なぜ長く使われるものが多いの?」
🐾この記事でわかること
- 北欧を代表する陶芸・セラミクスブランド5社のデザイン理念とその変遷
- 「一生使えるものを作る」という思想がどこから来たのか
- 各ブランドに共通する北欧デザインの本質、消費者に支持される理由

ロイヤルコペンハーゲンて高いけど、なんだかんだ一生ものだよなー。

それ、雰囲気じゃなくて設計思想の話よ。『捨てなくていいものを作る』という考え方が最初からあるの。むしろ食器だからこそ、毎日使うものだからこそ、北欧のデザイン思想が一番素直に出てくるのよね
北欧デザイン①では「道具が美しくあることは、冬が長い生活において必然だった」という思想を掘り下げました。今回はその思想が、最も身近な道具である食器にどう宿っているかを、5つのブランドを通じて見ていきます。

比較要約表:北欧陶芸・セラミクスブランド5社
| ブランド | 国 | 創業 | デザイン哲学の核心 |
|---|---|---|---|
| Kähler | デンマーク | 1839年 | 芸術家との協働で生まれた「Kähler red」。美と実用の融合 |
| Arabia Finland | フィンランド | 1873年 | 日常の食器を芸術に。「使う芸術」という民主的な思想 |
| Royal Copenhagen | デンマーク | 1775年 | 250年続く手描きの伝統。大量生産時代に職人技を守り続ける |
| Lyngby Porcelain | デンマーク | 1936年 | バウハウスの影響を受けた機能美。「装飾より形」という転換 |
| Iittala | フィンランド | 1881年 | 「捨てなくていいものを作る」という民主的設計の徹底 |
① Kähler(ケーラー):芸術家との協働が生んだ「Kähler red」
ケーラーは、1839年デンマークのナエストベズという小さな町で陶芸家ヘルマン・ケーラーが創業しました。186年の歴史を持つデンマーク最古級の陶芸ブランドのひとつです。
創業当初は厨房用品や暖炉タイルを作るシンプルな窯元でした。それが大きく変わったのは、2代目のヘルマン・A・ケーラーが釉薬(ゆうやく=陶器の表面に塗るガラス状の塗料)の実験を始めてからです。

ケーラーといえば、キャンドルを灯す小さなおうちのような陶器が人気ですが、陶器に塗られた釉薬が醸し出す雰囲気が特徴です。

彼は1888年、イタリアのグッビオで16世紀に作られた「マイオリカ釉薬」から着想を得て、ルビーレッドの輝きを持つ独自の釉薬「Kähler red(ケーラーレッド)」の開発に成功。同年のコペンハーゲン北欧大博覧会と翌1889年のパリ万博に出品し、世界的な名声を確立したの。

ほかのブランドと違うのは、ケーラーが創業当初から芸術家との協働を設計の核心に置いてきた点だ。
ヘルマン・A・ケーラーは当時の重要な芸術家たちをナエストベズに招き、画家のL.A.リングやH.A.ブレンデキルデ、そして著名な陶芸家スヴェン・ハンメルスホイと直接協力関係を築きました。職人が作り、芸術家が装飾するという形ではなく、芸術家が製品そのものの設計に関わる体制が、Kählerの美の源泉です。
2018年にRosendahl Design Groupに買収されて以降も、この協働の姿勢は続いています。現在の製品ラインには、北欧の自然・神話・有機的なフォルムから着想を得たコレクションが並び、創業時の「美と実用の融合」という軸は一切変わっていません。
② Arabia Finland(アラビア フィンランド):「使う芸術」という民主的な思想
「アラビア」は1873年、フィンランドのヘルシンキ近郊でスウェーデンの陶芸メーカー・ロールストランドの子会社として創業しました。現在はFiskars Corporationが所有しています。
Arabiaが北欧デザインの文脈で特別な存在である理由は、「芸術と日常を切り離さなかった」という点に集約されるでしょう。

1940〜50年代、Arabiaは工場内に「アート部門」を設立、陶芸家・デザイナー・芸術家たちに仕事中の自由な時間を与えました。その成果、製品として販売されるとともに美術館に収蔵される「使える芸術品」の誕生につながったのだそう。
この時代を代表するデザイナーが、カイ・フランク(Kaj Franck)です。
彼がArabiaとIittalaで手がけた作品群は、フィンランドデザインの良心と呼ばれるほど影響力を持ちました。フランクの設計哲学は「シンプルは美しい」の一言に尽きます。余分な装飾を排除し、積み重ねやすく、洗いやすく、長く使えるようデザインされています。
Arabiaの代表的なコレクション「Ruska(ルスカ)」は、フィンランドの秋の紅葉をイメージした大地色の食器シリーズです。デザイナーのウッラ・プロコペ(Ulla Procopé)がデザインしたこのシリーズは、1960年代に登場して以来、フィンランドの家庭に最も深く根付いた食器のひとつとして今も生産が続いています。

なお、2007年以降はフィンランド国内での製造からタイ・ルーマニアの工場へ移行した部分もありますが、デザインの開発はフィンランドで続けられています。
③ Royal Copenhagen(ロイヤル コペンハーゲン):250年続く手描きの伝統
ロイヤル コペンハーゲンは1775年、デンマーク王室の支援を受けてコペンハーゲンに創業しました。250年以上の歴史を持つ、世界最古の磁器ブランドのひとつです。
Royal Copenhagenの最も有名なパターン「ブルー フルーテッド(Blue Fluted)」は、18世紀にヨーロッパで流行した中国の磁器への憧れを背景に生まれました。「パターンNo.1」とも呼ばれるこのデザインは、なんと250年以上にわたって作り続けられており、手描きの青いラインが語るのは、あらゆるロイヤルコペンハーゲンのパターンに影響を与えた時を超えた美の物語です。
Royal Copenhagenの最大の特徴は、大量生産が当たり前になった現代でも手描きを守り続けていることです。工場内の職人は一人ひとりが固有のスタンプを持ち、自分が描いた製品に印を残します。同じパターンでも、描いた職人によって表情が微妙に異なります。

つまりRoyal Copenhagenの製品は工場で作られているが「世界に一つだけのもの」なんだよな。
2000年には、陶芸家カレン・シェルゴード・ラーセンが「ブルー フルーテッド メガ(Blue Fluted Mega)」を発表。古典的なモチーフの一部を大胆に拡大したこのデザインは、力強さと馴染み深さを同時に持ち、伝統的なデザイン要素を現代版に翻訳するアプローチを行いました。

250年の伝統の上に、現代のデザイナーが新しい解釈を積み重ねていく。どの分野でもこういう変遷って必要よね。変えすぎず、変わり続けること。変化し続けるメーカーは息が長いわね。
④ Lyngby Porcelain(リュンビュー ポーセリン):「装飾より形」というデザインの転換点
リュンビュー ポーセリンは、1936年コペンハーゲン郊外のリュンビューという町に、使われていない砂糖精製工場を改装して設立されました。1969年に一度閉鎖され、2012年にブランドとして復活。2016年からはRosendahl Design Groupが所有しています。

Lyngby Porcelainが生まれた1930年代は、陶芸デザインの歴史において重要な転換点でな。それまで磁器のデザインは絵柄・模様・色彩がいかに美しいかが評価の基準だったようなんだ。

だけど、1920年代以降、ドイツの芸術学校バウハウスの影響を受けて「形と機能」が重視されるようになった‥。時代の流れね。装飾よりも、形そのものの美しさを追求する方向性が生まれた。
バウハウスとは、1919年にドイツで創設された芸術・工芸・建築の学校です。「美しさと機能は分けられない」という思想を掲げ、シンプルな形の中に合理性と美を共存させるすることを教えました。バウハウスの思想は、北欧の食器デザインにも大きな影響を与えました。

Lyngby Porcelainの代表作「Lyngbyバース(Lyngby vase)」は、縦に走る細いラインが特徴的な円筒形の花瓶です。1930年代に生まれたこのデザインは、バウハウスの機能主義の思想から直接影響を受けており、底面には職人が手で刻印したモノグラムが入ります。発売から90年近く経った今も製造が続き、現代のインテリアに自然に溶け込みます。

なぜ、古いデザインが今も売れるのか。その答えは、シンプルな形、最低限の装飾でありながら、他で見られないデザインであること。流行に依存していないため、デザインが時代に左右されない。これがLyngby Porcelainの凛としたデザインの根幹なのではないでしょうか。
⑤ Iittala(イッタラ):「捨てなくていいものを作る」という民主的設計の徹底
イッタラは1881年、フィンランド南部のイッタラという村にガラス工場として創業しました。現在はFiskars Corporationが所有し、陶器・ガラス・鋳鉄製品まで幅広く展開しています。
イッタラのデザイン哲学は「本質的で、美しく、使いやすく、誰にでも手の届くものを作る。使う人が用途を決める」です。

Iittalaの礎を作ったアイノとアルヴァ・アアルト夫妻の言葉でね。
イッタラがこの思想を最も明確に体現したのが、デザイナーのカイ・フランクの仕事です。アラビアのご紹介でも出てきましたね。フランクは、Iittalaの「Teema(テーマ)」シリーズと「Kartio(カルティオ)」シリーズを設計しました。

カイ・フランクの仕事については、デザインをまとめた書籍がある。プロダクトデザインに一貫した遊び心を持ってて、色彩感覚も興味深いんだ。
Teemaは1952年の登場以来、現在も製造が続く定番食器です。プレート・カップ・ボウルが同じデザイン言語で統一されており、組み合わせも自由。積み重ねやすく、電子レンジ・食洗機に対応し、何十年たっても追加購入できる。無意識に手に取ることが多くなる食器です。
また、アルヴァ・アアルトが1936年にデザインした「Aalto vase(アアルトの花瓶)」は、フィンランドの無数の湖をモチーフにした有機的な曲線を持つガラスの花瓶です。

イッタラは、1937年のパリ万博で受賞して以来、スカンジナビアのインテリアを象徴するプロダクトとして世界中に認知されています。1,000種類以上の秘密のカラーレシピを持ち、ガラスの色の表現力においても大変優れています。
「品質・美しさ・機能性はフィンランドにおける重要な価値観であり、イッタラは一生持続するインテリアデザインを信じている。」この一文がイッタラのものづくりの理念です。
5ブランドに共通する「なぜ長く使えるのか」の答え
5つのブランドを並べると、「なぜ北欧の食器は一生使えると言われるのか」という問いへの回答が浮かんできました。

所感として、
流行に頼っていないから
捨てる理由を作らない設計である
使うほど愛着が増す素材と仕上げ
ということが言えるのではないでしょうか。「北欧食器と暮らす」のような表現があるように、北欧食器はなんだか暮らしの相方のようです。あるだけで嬉しくなる、安心感があるというような。

うむ。面白いことに、北欧の企業やプロダクトを探していても、YouTubeでプロモーションするとかコンテンツ作りを頑張ってるところが少ないような‥?一般的な流行にのる雰囲気がないんだ。

そういう売り方に一線を引いているのかしら。たくさん売ろうとすると、注力するところが増えるしね。
Kählerの釉薬の美しさや、Royal Copenhagenの手描きの模様、Iittalaの有機的な形も、特定の時代のトレンドをなぞるのではなく「素材や質感の普遍的な美しさ」を引き出すよう意識して設計されています。また、釉薬は使い込むほど表情が変わり、Royal Copenhagenの手描き模様は一枚ごとに違うのです。
プロダクトそのものが美しく、使い手も流行を追う必要がないからこそ、IittalaのTeemaシリーズは何十年後でも追加購入でき、Royal Copenhagenの食器は欠けても修復して使う価値があります。
「道具が美しくあることは必然だった」。食器という最も身近なスケールで、最も誠実に実践された生活の道具たち。食卓やキッチンにも、このデザイン理念が静かに存在しています。
お読みいただきありがとうございました!
