【北欧デザイン⑤】チケットなしで入れる建築|Snøhetta・BIG・EFFEKT・Henning Larsen・Dorte Mandrup。北欧の建築事務所5社に共通するデザイン哲学
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「北欧の建築って、なぜあんなに居心地がいいのでしょうか。」
🐾この記事でわかること
- 北欧を代表する建築事務所5社のデザイン哲学と代表プロジェクト
- 「公共空間の民主化」「楽しさと持続可能性の両立」「自然との共存」など、それぞれ異なる切り口で共通する思想

オスロの歌劇場とか、コペンハーゲンの建物って、なんか市民も含めて全ての人のためって感じがする。そもそも観客のためじゃないのか?

それ、興味深い視点だわ。誰のために建てるか、という問いが設計の最初にあるのよね。きっとチケットを持っていない人のためにも、なのよ。
北欧デザイン①では、北欧デザインが生まれた背景として「長い冬・民主主義的デザインの思想・使う人の感情まで設計する姿勢」を掘り下げました。今回はその思想が建築という最大スケールで、どう実践されているかを、北欧発の5つの建築事務所を通じて見ていきます。

比較要約表:北欧の建築事務所5社
| 事務所 | 国 | 設立 | デザインコンセプト |
|---|---|---|---|
| Snøhetta | ノルウェー | 1989年 | 「歩き回る権利」をすべての建築に |
| BIG(Bjarke Ingels Group) | デンマーク | 2006年 | 「Yes is More」楽しさと持続可能性は同じ問題 |
| EFFEKT | デンマーク | 2007年 | 人と自然を再びつなぐ設計 |
| Henning Larsen | デンマーク | 1959年 | 光と自然が人間の相互作用を生む |
| Dorte Mandrup | デンマーク | 1999年 | 「文脈的過激主義」場所の記憶と気候を建築で語る |
① Snøhetta(スノヘッタ):チケットがなくても入れる建築

1989年にオスロで設立。建築・ランドスケープ・インテリア・ブランドデザインを横断する事務所です。2008年に完成したオスロ国立歌劇場は、北欧建築の現代的な到達点として世界に知られています。
この建物の最大の特徴は、屋根が市民に開かれていることです。傾斜した大理石の屋根は海岸線から連続しており、誰でも自由に歩いて登ることができます。コンサートや野外イベントの日には1万5,000人もの人が屋根の上に集まることもあります。

この設計思想の背景にあるのが、「allemannsretten(アレマンスレッテン)」というノルウェー語の概念。「歩き回る権利」って意味よ。

ふむ。アレマンスレッテンは、ノルウェー法で保護された誰もが自然の中を自由に移動できる権利のことらしい。こういう法律があることがそもそも北欧っぽい。Snøhettaはこの考え方を建築そのものに適用しているんだな。
サステナビリティは何らかの妥協である必要はない。それは美学を推進する要素になり得る。
— Fast Company / Bjarke Ingels On The Future Of Architecture
2026年には上海グランドオペラハウスが完成予定。こちらでも屋根が螺旋状の公共遊歩道になっており、黄浦江を見渡す展望台として市民に開放されます。「歌劇場は観客のためだけのものではない」という、本当の意味でパブリックな公共建築のコンセプトが、国境を超えて実践されています。
② BIG(Bjarke Ingels Group):「楽しさ」と「持続可能性」は同じ問題だ
デンマーク・コペンハーゲン出身のBjarke Ingels(ビャルケ・インゲルス)が2006年に設立。「Yes is More」というマニフェストで知られ、現在コペンハーゲンとニューヨークを拠点に400人以上のスタッフを抱える国際的な事務所に成長しています。
BIGの哲学の核心は「快楽主義的持続可能性(Hedonistic Sustainability)」という概念です。「環境に配慮することは、生活の質を犠牲にすることではなく、むしろ高めることだ」という主張です。
持続可能性には犠牲が必要だという前提は、経済の法則ではなく、デザインの問題だ。
— Bjarke Ingels(BIG創業者)
この思想を体現するのが、コペンハーゲンの廃棄物処理施設「CopenHill(コーペンヒル)」です。

廃棄物を燃やしてエネルギーを作る工場の屋根に、スキー場・クライミングウォール・ハイキングコースを設けた施設で、環境設備と市民の娯楽施設が完全に一体化しています。2011年のTEDトークで200万回以上視聴されたこの概念は、「環境問題はつまらなくなくていい」という問いを建築で証明した事例として世界中で語られています。

この「Yes is More」というスローガンは、「Less is More(より少ないことがより豊かだ)」という20世紀の近代建築(ミース・ファン・デル・ローエの言葉)への反論だな。

「より少なく、より削って」ではなく「肯定するほど豊かだ(Noと言って制約を設けず、Yesと言って複雑なことに取り組もう)」って言いたいのね。これがBIGの設計思想なのねぇ。
③ EFFEKT:「自然が本当の体験を与える。私たちはそれをより身近にするだけ」

2007年にコペンハーゲンで設立。建築・都市計画・ランドスケープ・研究を横断する集団として活動しています。公式サイトにはこう書かれています。
EFFEKTは、あらゆるスケールのデザインを通じて人と自然を再びつなぐことを使命とする、建築・研究のコレクティブ(集団)だ。
自然が本当の体験を与える。私たちはただそれをより身近にして、新しい視点を提供するだけだ。
— Tue Foged(EFFEKTパートナー)
代表作は、コペンハーゲン南方1時間の保護林に建てられた「Camp Adventure Forest Tower」です。

高さ45メートルの観察塔と、900メートルの木道で構成されており、森の中の生態系をできる限り傷つけない設計になっています。塔は円柱形ではなく、細い腰と広い基部・頂部を持つ独自の形状で、樹冠の上に突き出すように立っています。

驚くべきことに、本当に一本も切り倒していないらしい。こんなTHE 森の中なのに!?

建設中に木は一本も伐採されておらず、自然の地形もそのまま保持されているんだとか。EFFEKTのCOO Mikkel Bøghによると、自然環境に配慮するために、構造物全体を工場で製造・プレファブ化してから現地に持ち込み。設計から施工完了まで2年かかったんだって。実際の建設作業は6ヶ月で終わったらしいわ。なんて壮大なプロジェクトなの、、。
EFFEKTはこの建物を「建築 vs 自然」ではなく「建築が自然を媒介する」というコンセプトで設計しました。木道の高さと低さを分けて、森の若い部分と古い部分を別の目線で体験できるように設計されており、訪問者が森そのものを学べる仕掛けが随所に組み込まれています。
④ Henning Larsen:「光の建築家」が問い続けた、民主的な空間
1959年にコペンハーゲンで設立。創業者Henning Larsen(ヘニング・ラーセン)は「光の建築家(Master of Light)」と呼ばれ、デンマーク人として初めてプレミアム・インペリアーレ(建築界のノーベル賞に相当する賞)を受賞しました。
Henning Larsen自身は、デンマークの暗い冬の中で育ったことが光への強い関心の源だったと語っています。北欧デザインシリーズ①で触れた「冬が長いから」という出発点が、建築家としての感覚にまで刻まれていたことがわかります。
代表作の一つ、コペンハーゲンのデンマーク・ラジオ(DR)本社は、公共放送の民主的な役割を建築で表現した作品として知られています。
デンマークのデザインの核心にあるのは、すべての市民が福祉社会の恩恵を受けられるという考え方だ。建築は、個人としても集団としても、人間の体験にとって不可欠なものとなっている。
— Henning Larsen公式サイト(創業者の思想を紹介するページより)
また2019年に建築家の欧州賞(European Prize for Architecture)を受賞した同事務所は、現在もコペンハーゲン・ニューヨーク・シンガポール・香港・ベルリン・オスロに拠点を持ち、教育・文化・公共施設を中心に活動しています。
⑤ Dorte Mandrup(ドルテ・マンドラップ):「良い建築は、良い人生をつくる」
1999年にコペンハーゲンで設立。彫刻・医学・建築を学んだ異色の経歴を持つデンマーク人建築家Dorte Mandrupが率いる事務所です。2024年にはドキュメンタリー映画「Women in Architecture」に登場し、現代建築の最も影響力のある声の一人として国際的に知られています。
Dorte Mandrupの哲学は「文脈的過激主義(Contextual Radicalism)」と呼ばれます。周囲の環境・気候・文化・そこに住む人々の記憶に深く根ざしながら、そこから大胆な答えを引き出すというアプローチです。
建物は周囲と深くつながっている——気候・文化・景観・そこに住む人々の生活と。Dorte Mandrupにとって、文脈は単なる考慮事項ではなく、設計を駆動する力だ。
— ArchDaily

良い建築は、良い人生をつくると確信している。(Dorte Mandrup)っていう言葉もいいわよね。
代表作の一つが、グリーンランドの「Ilulissat Icefjord Centre(イルリサット氷河センター)」です。ユネスコ世界遺産に指定された氷河地帯に建てられたこの施設は、景観に溶け込むように低く水平に設計されており、建物自体が気候変動の証言者として機能するよう設計されています。

コンセプトも建物としての役割も壮大すぎて、、環境に根ざしまくったプロジェクトなんだな。。この地に建てることの社会的意義とインパクトがすごい。
またカナダのプロジェクト「Nunavut Inuit Heritage Centre(カナダ・ヌナブト準州)」は、イヌイットの人々の文化・伝統・価値観を未来に伝えるための施設で、建物の形が雪の吹きだまりのパターンから着想を得ています。これはイヌイットの人々が自然の中で方向を知るための知識「kalutoqaniq(カルートカニク)」を建築に翻訳したものです。

「kalutoqaniq(カルートカニク)」ってどういう意味にとらえればいいのかしら?

イヌイットの言葉で「サストルギ」と呼ばれる雪の形のことらしい。イヌイットの人々はこの雪の形を読むことで、吹雪や視界ゼロの状態でも方角を知り、広大なツンドラ(木が生えない極寒の平原)を移動することができた。
つまり、「風が雪に刻んだ地図」みたいな感じか。
「建築は気候変動の問題であり、文化的和解の問題でもある」というDorte Mandrupの姿勢は、この社会への責任という視点でも、北欧的思想を建築に落とし込む実践の一つです。
5つの建築事務所に共通するもの
Snøhetta:「チケットなしで入れる歌劇場」
BIG:「スキーができる廃棄物処理施設」
EFFEKT:「森を学べる木道」
Henning Larsen:「光が人を引き寄せる学びの場」
Dorte Mandrup:「気候変動と先住民文化を語る建築」

問いの形は違っても、向かっている方向は不思議と同じ。
人と環境について深く考えられているからこそ、こうしたデザインが作られたのだと思います。さらに、建築は特定の人のためだけにあるのではない、という定義づけ。
北欧の建築デザインからは、生活するすべての人、またその場所に生きる自然や文化の、代弁者となるようなコンセプトを知ることができます。
道具が「誰にでも届くべきもの」だったように、建築も「誰にでも開かれているべきもの」だという思想がありました。北欧の「民主主義的デザイン」は、スケールが変わっても意識され、継承され続けているのではないでしょうか。
お読みいただきありがとうございました!
